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生成AIで図面を解析!活用可能な生成AIや、手法を最新の研究から調査・解説

生成AIで図面を解析!活用可能な生成AIや、手法を最新の研究から調査・解説

図面解析とは、機械部品や建築・製造分野で用いられる設計図面(2D・3D CAD図面)から必要な情報(寸法、材質、部品表など)を読み取り、データ化するプロセスです。従来は専門スタッフが目視で図面を読み取って手動でデータを入力しており、時間と労力がかかる作業でした。近年の AI 技術の進展により、OCR(光学文字認識)やコンピュータビジョンを用いた図面自動読み取りが実用化されていますが、文字や規格化記号だけでなく「図形の意味」を理解するのは依然として難しく、高度な画像解析手法が求められています。そこで注目されているのが、テキストと画像を統合的に扱う生成系AI(Generative AI)や大規模言語モデル(LLM)の活用です。例えば OpenAIの GPT-4V や Anthropic Claude 3 など、画像と文章の両方に対応したマルチモーダルAIは、図面のビジュアル要素と設計意図を結び付け、自然言語で説明したり要約したりする能力があります。また、専用に学習された神経モデルにより図形の関係性を推論し、従来の CAD ワークフローを補助する実装も進められています。一方で、複雑な配線図や部品図の正確な解釈には専門知識が必要であり、生成AIだけで完璧に解決できるわけではありません。現状では、人手とAIを組み合わせた協調的なワークフローや、RAG(Retrieval-Augmented Generation)による外部知識併用などで精度向上を図る研究が主流です。以下では、具体的な企業・組織の事例と最新の研究動向から、生成AIを用いた図面解析の技術と可能性を詳しく解説します。

企業・組織による実装事例

AI CAD Autom concept illustration

実際の業務で生成AIを図面解析に応用しようとする動きは国内外で増加しています。以下に、公式発表やプレスリリースなど一次情報に基づく具体例を紹介します。

  • 株式会社ファースト・オートメーション(日本) – 2024年11月に発表されたプレスリリースでは、愛知県のベンチャー企業・ファースト・オートメーションと金属加工企業ナツメが共同で、2次元設計図から3D CADモデルを自動生成する実証実験を開始すると報告しています (1) 。同社が開発する製造業向け生成AI「SPESILL」に2次元図面を入力すると、機械部品の形状や動作を忠実に再現した3Dモデルが出力される仕組みです(図1)。図中のグラフ情報や文字もAIが認識し、部品の寸法や接続関係を反映します。この実験では、約4ヶ月間で実業務への適用性や変換精度、設計者の作業フローへの影響を検証する予定です 。成功すれば、設計作業の手間削減と製品開発の迅速化が期待されます。

  • JAPAN AI株式会社(日本) – 2025年9月に発表されたプレスリリースで、製造業向けに「マルチモーダルRAG(Retrieval-Augmented Generation)」技術を実装したと報告しています (2) 。これまで同社はテキスト検索を使った技術資料検索サービスを提供していましたが、図面や写真といった視覚情報を含む資料の検索には限界がありました。今回の実装により、PDFに含まれる図面やグラフをAIが自動識別し、図面内の数値や仕様を自然言語で回答する機能が加わりました。例えば、「全長50m級の船舶設計図を検索し、その詳細寸法を教えて」といった質問に対し、AIは該当する図面を特定したうえで「全長52m、全幅8m、喫水3m、総トン数450t」などと具体的な寸法情報を抽出して返答します 。従来のOCRによる文字認識のみでは困難だった図形からの情報抽出が可能になり、設計者は過去の類似図面を効率的に参照できるようになりました 。

  • 三菱電機(日本) – TechTargetの記事によれば、組み込みシステム向け開発部門で生成AIのPoC(概念実証)を実施しています。当初、社内文書(設計書や仕様書)に含まれる図面・図表を生成AIで処理しようとしたところ、「画像の含まれた資料の理解」が課題となりました。しかし2024年7月にAnthropicのマルチモーダルモデル「Claude 3 Sonnet」が利用可能になると、この課題の一部が解消されました。三菱電機では設計書の画像をClaude 3に読み込ませて内容を要約することで、実際の設計図面に対するメタデータ(キーワードなど)を自動生成する手法を採用しました (3) 。これにより、従来テキスト検索だけでは見つけにくかった図面内の仕様や関係情報をRAG検索に付与できるようになり、検索精度は60~70%向上、関連作業の開発工数を20~40%削減できる見込みです 。画像認識による図面解析の精度に限界がある中、生成AIを利用した補助的メタデータ生成で実用性を確保した事例と言えます。

以下の表は、上記のほか主要な企業・組織の事例をまとめたものです。有力な取り組み内容や使用技術、成果を比較できます。

企業・組織名 活用内容 AI技術・手法 効果・成果
ファースト・オートメーション+ナツメ 2D設計図を3D CADモデルへ自動変換 自社開発の生成AI「SPESILL」 図面読み取りの負担大幅減、製品開発のスピード向上が期待(実証実験中)
JAPAN AI株式会社 図面検索と設計データ抽出用マルチモーダルRAG実装 画像・文書統合探索(Vision-Language RAG) 図面内寸法情報や仕様を自動抽出し、過去事例探索が可能に
三菱電機 設計書・図面のメタデータ自動生成による検索強化 Claude 3(Sonnet)による画像要約・要素抽出 検索精度60~70%向上、開発工数20~40%削減効果を見込む(PoC段階)
Robert Bosch GmbH 欠陥画像の生成で品質検査データを補完 ボッシュ自社開発基盤の生成AI(画像生成) 溶接不良画像を約1.5万枚合成し学習データを強化、モデル学習時間を大幅短縮 (4)
Nextech3D.ai / Toggle3D.ai (米国) CADデータから高品質3Dモデルを自動生成 独自生成AIベースのWebアプリ(CAD-to-3D変換) テキスト入力で4Kテクスチャ付き3Dモデル生成が可能になり、非専門家でも高品質な3Dアセット作成を実現 (5)

これら事例から、生成AIの利点として「人手では作りづらい大量のデータ生成」「図面の文脈理解」「過去資料参照の容易化」などが挙げられます。一方、完全自動化には現時点で課題も多く、実用化には「人間による結果確認」「生成AIとの協調」といった対策が不可欠です。

最新研究動向

Hybrid Visio concept illustration

企業事例が増える一方、学術的には図面解析に関する研究開発が急速に進展しています。以下では、直近の論文・技術を取り上げ、生成AIや関連手法がどのように問題に取り組んでいるか解説します。

  • ハイブリッド視覚言語モデルによる解析 – 2025年6月の arXiv 論文では、「From Drawings to Decisions: A Hybrid Vision-Language Framework…」と題し、2D機械図面から加工情報を構造化して抽出する手法が提案されています (6) 。この手法では、最初に判定器(YOLOv11-OBB)で図面上の寸法表記・注記などを検出し、その切り出し画像パッチを軽量の視覚言語モデル(VLM)に入力します。VLM(具体例としてDonutや Florence-2)のファインチューニングにより、パッチ内の文字列や数値を文字列に変換し、GD&T情報や仕様を正確に構造化できます。著者らはテストセットで Donut(VLM)を用いた結果、精度88.5%、再現率99.2%、F1スコア93.5%という高性能を達成し、実際に製造工程選択など下流工程で有用な情報抽出が可能であることを示しました 。つまり、既存の物体検出とLLMを組み合わせることで、複雑な図面から信頼性の高いデータを完全自動で取り出す可能性が示されています。

  • Seq2SeqによるCAD生成 – 2025年8月の arXiv 論文「Drawing2CAD」では、2Dベクトル図面からCADコマンド列を生成する手法が報告されています (7)。従来の「点群から3Dモデルを生成」といった研究とは異なり、製造現場で通常作成される2D図面を入力として捉え、トランスフォーマーベースのシーケンス学習でパラメトリックCAD操作を生成します。本研究では、図形情報を正確に保持するための「ベクトルプリミティブ表現」を使い、コマンドタイプとパラメータ生成を二層のデコーダで分離して推論する構造を導入しています 。これにより、寸法や形状の精度が保たれつつ設計意図を失わない形で2Dから3Dへの変換が可能になります。この研究では独自データセット(CAD-VGDrawing)も作成され、精度評価と実用性の検証が進められています 。

  • グラフ基盤のセグメンテーション – 2022年の研究では、エンジニアリング図面の成分(寸法線、文字、輪郭線など)を人手のラスタ画像から抽出し、グラフニューラルネットワークで各部分の意味を認識する手法が開発されました (8)。図面を線画に変換して成分を抽出し、その隣接関係からグラフを構築して各ノード(成分)の種類を分類します。実験では、テキスト・寸法・輪郭の各成分を高精度で識別でき、従来手法を上回る性能を示しました。こうしたビジョン系とグラフ系を組み合わせた解析は、図面特有の線情報を活用して細部まで正確に解釈する道を拓きます。

これら研究は、生成AI(あるいは大規模視覚言語モデル)を図面解析に応用する際の新しいアプローチを提示しています。たとえば、既存の設計データベースを検索に活用するRAG(Retrieval-Augmented Generation)のフレームワークも視野に入りつつあります。研究室が作成したデータセットや基礎モデルはオープン化されており、今後の実装が進めば企業独自の図面形式や記号体系にも適用範囲が広がるでしょう。

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活用可能な生成AI技術・手法

Generative AI concept illustration

現在利用可能な生成AI技術としては、大きく分けて以下のようなカテゴリが挙げられます。

  • 汎用マルチモーダルAI(GPT-4VやClaude 3など) – OpenAIやAnthropicの最新モデルは、画像入力に対応し、図面の写真やスクリーンショットを読み込ませることもできます。これらは「図面図そのもの」の認識には未だ課題があるものの、文字や簡単な図形の解釈、QAへの活用で威力を発揮します。実装例として、クラウドサービス化された大規模モデルをSaaS経由で利用し、RAGライブラリを組み合わせて図面資料を検索・要約するアプローチが考えられます 。

  • 視覚言語モデル(Donut, Florenceなど) – 図面解析用に特化学習されたモデルでは、OCRよりも構造情報を保持できる点が強みです。前述の研究 のように、図面から切り出した注記や寸法パッチをVLMで解析すれば、表形式で出力させることも可能になってきています。これら軽量モデルはネットワーク帯域や計算リソースが限られた環境でも動作するよう設計されており、製造現場のIoTデバイスやエッジ端末での利用にも向きます。

  • シーケンス生成モデル(Transformer) – 図面(特にAdobe IllustratorやCADのベクトル形式)のプリミティブ情報をそのままエンコードし、CADコマンドを生成する研究開発が進んでいます 。この方法はまさに「設計の言語化」であり、生成AIというよりは広義の深層学習システムと言えます。実用化すれば、図面CADを直接アップロードするとパラメトリックな3Dモデルやスクリプトコードが出力される未来が見えてきます。

  • 強化学習・反復対話型AI – 図面解析では「まだ分からない部分は専門家に確認する」柔軟さも重要です。そこにChatGPTのような対話型AIを組み合わせ、AIが自動解析した内容を質問形式で検証・補正するワークフローも考えられます。例えばエラーが出た図面を入力し、「ここに誤認識がないか?」と尋ねることで、AIと人間が協働して解析精度を高めるアプローチです。

  • 生成的敵対ネットワーク(GAN)や拡散モデル – 現状では図面そのものの解析よりも、品質検査用の「不良パターン画像生成」に活用されています(ボッシュ事例 )。ただし将来的には、部品形状のバリエーション生成や失われた図面情報の補完(損傷した図面の自動復元)など、新たな用途も想定されています。

以上の技術を組み合わせ、既存のCADシステムやPLM(製品ライフサイクル管理)ツールに統合すれば、図面解析業務の自動化と設計サイクル短縮に大きく貢献できます。ただし、どの技術にも「入力データや図面記号体系に依存する」「AIの誤認識リスクがある」などの課題が残るため、現場では検証・補正工程や専門知識を持つ人材との協働が重要です。

考察と今後の展望

AI in Bluepr concept illustration

生成AIを図面解析に応用する研究・開発は現在も急ピッチで進んでおり、上記の事例・研究成果からは技術的な可能性が伺えます。一方で現段階では、以下のような点に留意する必要があります:

  • 図面の複雑性:設備図や回路図のような複雑な図面では、線や記号はほんの一部の情報に過ぎません。生成AIが専門的な記号知識や工学的常識をすべて理解するのは容易ではなく、専門家の知見による補完が依然必要です。

  • データのバラツキと質:AIに学習させるための図面データセットが大量かつ多様であることが望ましいですが、通常の企業では十分な教師データの収集・ラベリングが困難です。特に自社独自の図面記号やフォーマットに対応させるには、追加学習やルールのカスタマイズが必要です。

  • 生成AIの誤出力対策:LLM特有の「幻覚出力(ハルシネーション)」も問題です。図面にない部品名を勝手に生成したり、数値を間違えたりするケースがあるため、AI出力を鵜呑みにせず逐次検証する運用体制が求められます。

以上を踏まえると、現時点では「生成AIが図面を単独で完璧に理解する」というよりは、「生成AIを高度な補助ツールとして使いこなし、人+AIの協調で効率化を図る」方式が現実的です。例えば、AIが抽出した寸法情報をエンジニアが確認する、AIが参考図面を提示しつつ最終判断は人間が行う、といった形です。 (9)で述べられているように「AIは優秀なアシスタント」であるという位置づけが適切でしょう。とは言え、今回示した技術や研究成果が実用化されれば、図面処理に要する人的コストが劇的に削減され、製造業の生産性向上に寄与すると期待されます。

今後、以下のような取り組みが進むものと予想されます:

  • AIモデルのさらなる拡張:DonutやClaudeのようなVLMがより高精度化し、マルチモーダルRAGで検索対象の画像情報を自然言語QAに統合する技術が成熟すれば、いっそう自由度の高い問い合わせ型の図面分析が可能になります。
  • 業界標準との連携:CAD業界標準(ISOやAutoCADフォーマット)と連携して、生成AIを含むCADツールプラグインが開発されるかもしれません。すでに一部ツールではプラグイン形式でGPT呼び出しが提案されています。
  • ヒューマン・イン・ザ・ループ(人による継続的学習):ユーザがAIの解析結果にフィードバックを与える仕組みが整えば、生成AIは各企業の専用ルールや図面様式に適応して進化していきます。

結論として、現段階での生成AIによる図面解析は「学習済みモデルによるOCR+検索や、2D→3D変換補助が中心」であり、図面全体の意味を自律解釈するには人の役割が残ります。しかし、研究・技術動向を見る限り、近い将来にはスケッチやテキスト指示から設計案を生成し、既存図面からBOMや解析レポートを自動生成するようなワークフローが実現している可能性もあります。いずれにせよ、現在の技術を正しく理解しつつ、PoCを通じて効果を検証し、AI技術と人知を組み合わせるハイブリッドな導入が成功の鍵となるでしょう。

参考文献: 企業プレスリリースや技術ニュース 、および最新研究論文 に基づき作成。

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