知見のアーカイブ

AI時代の無線LAN「Wi-Fi8 」とは?今までのWi-fiとどう変わる?わかりやすく解説!

AI時代の無線LAN「Wi-Fi8 」とは?今までのWi-fiとどう変わる?わかりやすく解説!

AI時代の無線LAN「Wi-Fi 8」とは

Wi-Fi 8(IEEE 802.11bn)は、次世代の無線LAN規格であり、その最大の特徴は「通信速度のさらなる向上」よりもむしろ「接続の信頼性・安定性の追求」にあります。これまでのWi-Fi技術が主にピーク時のスループット(最高速度)を重視してきたのに対し、Wi-Fi 8では「超高信頼性(Ultra-High Reliability)」をキーワードに、混雑や障害に強く途切れにくいネットワークを目指しています (1) (2)。例えば、Wi-Fi 7(802.11be)によって最大通信速度や多重接続が大幅に向上しましたが、Wi-Fi 8(802.11bn)ではそれらを維持したまま、安定した接続・低遅延・シームレスなローミングといった品質面の改善に注力します (3)。

この新世代規格は、主にAIやIoTなどエッジで要求される高度なユースケース(クラウドゲーム、拡張現実/仮想現実、遠隔医療、産業オートメーションなど)を見据えて設計されており、ネットワーク自体がパケットロスや遅延を極限まで抑えつつ、通信環境に応じて自律的に最適化されることが求められます (4) (5)。Wi-Fi Allianceや主要チップベンダーの発表によれば、Wi-Fi 8のドラフトは2025年頃にまとまり、2028年中頃に最終承認、2028~29年ごろに商用デバイスが登場すると見込まれています (6)。

主要無線LAN規格との比較

無線通信のイメージ

以下は、これまでの主なWi-Fi規格とWi-Fi 8とを比較した表です。Wi-Fi 8はWi-Fi 7と同じく最大320MHzチャネルを維持し、理論上の最大PHYスループットは約23Gbpsですが、その主な改善点は通信の「安定性・信頼性の向上」にあります 。

規格 周波数帯域 最大通信速度(理論値) 空間ストリーム数 主な特徴
Wi-Fi 6 (802.11ax) 2.4GHz / 5GHz ≈9.6Gbps 最大8ストリーム OFDMA、MU-MIMO、BSS着信通知(TWT)など
Wi-Fi 6E 2.4GHz / 5GHz / 6GHz ≈9.6Gbps 最大8ストリーム 6GHz帯の追加(干渉低減)、高密度環境性能向上
Wi-Fi 7 (802.11be) 2.4GHz / 5GHz / 6GHz ≈46Gbps※ 最大16ストリーム 320MHz帯域、4K-QAM、マルチリンク(MLO)、低遅延
Wi-Fi 8 (802.11bn) 2.4GHz / 5GHz / 6GHz ≈23Gbps 最大8ストリーム 超高信頼性(UHR)重視、多AP協調、AIテレメトリ

※ Wi-Fi 7の約46Gbpsは多数のストリームやマルチリンクを組み合わせた理論値です。

上表から分かるように、Wi-Fi 8は無線帯域幅やチャネル幅、理論上の最大速度の点ではWi-Fi 7と大きく変わりません 。しかしWi-Fi 7が「より速い通信能力の実現」に主眼を置いたのに対し、Wi-Fi 8では「通信の安定性・信頼性を向上させる新機能の追加」に重点が置かれており、ユーザーの体感品質を改善します 。具体的には、複数のアクセスポイント(AP)の協調動作による干渉軽減や遅延制御、高度な電力管理、接続維持アルゴリズムの改善などが導入される見込みです。

Wi-Fi 8の主な技術的特徴

無線通信のイメージ

Wi-Fi 8では、以下のような新技術・機能が提案されています。特に、多数の機器が接続する環境下での「信頼性確保」と「効率的な帯域利用」を実現するための仕組みが盛り込まれます。

  • 多AP協調技術 (Coordinated APs): 複数のAP間で送信タイミングや電力制御を共有・調整し、同時伝送可能な機器数や範囲を広げます。Coordinated Spatial Reuse(Co-SR)では各APが出力量を調整し、干渉を最小限にして全体スループットを改善 (7)。試算ではコントロールが導入されたメッシュ環境でスループット15~50%向上の効果が報告されています 。また、Coordinated Beamforming(Co-BF)により隣接AP間でビームフォーミングの最適化を行い、狭い空間でも接続品質を向上させます 。
  • キー協調ビームフォーミング: 上記と関連し、複数APが協調して指向性を形成し、クライアントへ狙い撃ちのように電波を送信します。これにより同じ周波数を複数APが共用でき、混信を抑えつつ信号強度を高めます。
  • 動的サブチャネル運用 (DSO) / ノンプライマリチャネルアクセス (NPCA): 端末とAPで利用可能なチャネル幅が異なる場合に帯域を柔軟に割り当て、ピーク時の通信効率を最大化します。また、メインチャネルが使用中でも、別チャネルを使って通信を継続する仕組み(NPCA)を導入し、主要チャネル混雑下でも通信断を防ぎます 。MediaTekによれば、DSOで個別端末への帯域割当を最適化することで、帯域不均衡状態でも総合スループットを最大80%向上させられるとのことです 。
  • 拡張モジュレーションとコーディング: 従来のMCS(変調・符号化方式)間の段階を細かくし、電波状態が悪化した際も性能低下を抑制します 。これにより、通信距離の限界近くや移動中でもより安定した通信が可能になります。
  • 省電力化・拡張ターゲットウェイク時間(Coordinated TWT): 低消費電力IoT機器向けに、APと端末間で通信/待機時間を協調して交渉し、常時受信待ちを減らすことで消費電力を抑えます 。これにより膨大な数のセンサやデバイスが接続された環境でもバッテリー効率よく通信できます。
  • マルチバンド・マルチ接続の最適化: Wi-Fi 8は2.4GHz/5GHz/6GHz帯を継承しつつ、必要に応じてデバイスがこれらをシームレスにまたぐ接続をサポートします。例えば、移動中のローミング時には最適な周波数帯に自動で切り替え、遅延や切断を防ぎます 。
  • AI対応のネットワークテレメトリ: Broadcomの提案によれば、Wi-Fi 8チップにはリアルタイムの通信性能や環境データをハードウェア収集するテレメトリエンジンが組み込まれ、AIモデルの学習・推論に活用できます 。これにより、品質監視、異常検知、予知保全、自動最適化などAI駆動型のネットワーク管理が可能になり、次世代アプリケーションの性能向上に貢献します 。

これらの新機能は、総じて「多数のデバイスが接続された状況でも性能が著しく低下しない通信」を実現するためのものです。たとえば高密度都市部や大型商業施設、工場などでは干渉が課題ですが、Wi-Fi 8では複数APの協調によって他の電波の影響を低減し 、端末が弱電界地域に入っても通信が途切れにくくなります (8) 。

実装事例・業界動向

AIネットワークのイメージ

Wi-Fi 8はまだ標準策定途上ですが、すでに各社が積極的に開発・試験に乗り出しています。

  • Broadcom: 2025年10月、Broadcomは「Wi-Fi 8」のチップセットを世界初公開しました (9)。Broadcomによれば、これらのチップは「AI時代のエッジネットワークに必要な高い性能、信頼性、知能性、効率性」を満たす目的で設計されており、スマートフォンやPC、車載・IoT向けのライセンス提供も行うとしています 。同社は「AIファースト設計(AI-First)」を掲げ、通信から収集される細かなテレメトリ情報をAIで解析し、QoE(品質体感)の最適化やセキュリティ、予防保守に活用すると強調しています 。
  • Qualcomm: Qualcommも802.11bnタスクグループに積極参加し、Wi-Fi 8での「信頼性目標」を提案しています。具体的には「受信状態の悪い環境でのスループットを25%改善」「最悪条件下(95%タイル)の遅延を25%削減」「デバイス間ローミング時のパケットロスを25%削減」などです 。これらの目標は、エンタープライズやリアルタイム機器で問題となる通信途切れを大幅に減らすことを意図しています。また、Qualcommは標準の設計プロセスに沿って統合型多AP制御や強化型MCS、非プライマリチャネルアクセスなどを提案しており、最終規格策定は2028年中頃、機器陣容は2028年末~29年頃と見込んでいます 。
  • MediaTek: MediaTekは「Filogic Wi-Fi 8」を研究開発中で、同社のホワイトペーパーではWi-Fi 8が前世代以上の帯域幅(320MHz)や最高PHYレート(23Gbps)を維持しつつ、信頼性・効率・省電力に全力を挙げると示されています (10) 。MediaTekはIEEE 802.11bnの標準化にも参画しており、自社チップへの採用を念頭に技術を詳細に検討しています (11) 。
  • TP-Link: ネットワーク機器メーカーのTP-Link Systemsは2025年10月、プロトタイプ機器を用いたWi-Fi 8接続の試験でデータ伝送に成功したと発表しました 。この実証実験ではWi-Fi 8のビーコンとデータスループット検証を行い、「超高信頼性UHR接続」の技術的実現性を確認し、大きなマイルストーンと評価しています 。TP-Linkジャパンの公式プレスリリースによれば、この成功は「今後ますます多くなる機器と大量帯域を必要とするアプリケーションの時代において、業界が求める“超高信頼性”の性能を提供できる可能性を示すもの」と説明されています 。

これらに加え、ITベンダーやネットワーク機器メーカー(HPE/Aruba、Cisco、ネットギアなど)でもWi-Fi 8対応製品の検討が進んでいます。標準化団体であるIEEE 802.11bnタスクグループは2023年末に発足し、以降数千件の技術提案が寄せられています 。こうした動きから、Wi-Fi 8はAI/IoT時代のネットワーク基盤技術として注目を集めており、理論単価は未公表ながら、スマートフォン・PC・ルータ・APなど幅広いデバイスに採用される見込みです。

📊 お役立ち資料
国内99件のAI・データ活用プロジェクトの成功事例をまとめた資料です。 関心のある業界や、気になる関連企業の成功事例の詳細な事例集をご覧にいただけます。
ダウンロードはこちら

導入コスト・注意点

ネットワーク進化のイメージ

Wi-Fi 8対応機器が市場に出回るのはまだ先の話であり、初期コストは高めになる可能性があります。既存のWi-Fi 7対応ルーター・アクセスポイントは高性能機種でも数万円~数十万円が相場ですが、Wi-Fi 8世代も当初は同等かそれ以上の価格帯になることが予想されます。また、Wi-Fi 8の機能を活かすには複数AP環境やエンタープライズレベルの管理機能が必要となり、単一ルーターでの「買い換え」だけでは能力を十分に引き出せない点に留意が必要です。

技術面の課題としては、標準策定が完了していない点や相互運用性(過去のWi-Fi規格との互換性)の検証、そして複雑化するネットワーク制御への対応があります。例えば複数AP協調機能やAIテレメトリをフルに活用するには、新たな管理ツールやネットワークアーキテクチャが求められます。また、AIを活用するネットワークではデータ収集・分析のためにトラフィックを可視化する必要があり、セキュリティ・プライバシーへの配慮も重要です。企業や組織は、これらの技術要件を踏まえて慎重に導入計画を立てる必要があります。

まとめ:Wi-Fi 8時代の展望

Wi-Fi 8は、いわば「AI時代に即したネットワークの再構築」と言えます。高速化競争から一歩離れ、より確実で安定した接続を実現する進化を目指すことで、XR/AR、クラウドゲーム、遠隔医療、インダストリアルIoTなど新たな用途を支える基盤を提供します 。今後、Wi-Fi Allianceの認証プログラムやIEEE標準化プロセスが完了すれば、2028年以降に対応デバイスが徐々に登場し、市場に広がっていく見通しです 。ユーザーにとっては「ただ速いだけではない、本当に安定したワイヤレス体験」が期待できるようになり、AI時代の高度なアプリケーションを支えるインフラとして注目度が高まっています。

参考資料: IEEE標準化や各社のプレスリリース・ホワイトペーパーを参照 など。

📑 資料請求
 代表者直筆! ビッグデータラボの事例に基づく、社内でAI・データ活用のプロジェクトを進める上でのノウハウをまとめました。
ダウンロードはこちら

お問い合わせ

下記フォームよりお気軽にお問い合わせください。
担当者より折り返しご連絡いたします。

医療・ヘルスケア需要予測データ活用コンサルティング