小売・サービスのデータ活用
需要予測は、精度よりも活用先が重要
小売・サービスの領域は、受発注・販売データのデジタル化が進んでいれば、データ活用が取り組みやすく効果も出やすい領域といえます。中でも需要予測は色々な取り組みに繋がりやすく、そしてその成果は予測精度というよりも、どういった活用に繋げられるかにかかっています。
例えばライフ社は、自動発注の取り組みを広げていますが、用いられる需要予測は生鮮食品が3週間先に設定されています。これは予測モデルとしては比較的に長いと言えますが、これは社内発注業務のリードタイム上の必要であり、そして社内状況によりそのリードタイムは異なるでしょう(製造・物流業では長くて1年以上に渡るリードタイムがあり、それと比べるとやや短いと言えます)。
発注と値引きのデジタル化は、一部の大手小売店で実用段階に
需要予測を用いた発注と値引きの効率化の取り組みは進んでいます。例えばイオンリテールはAIによる自動発注により約380店舗・1,000品目で発注時間を平均5割、在庫を平均3割削減したと公表しています。また値引きの効率化の取り組みでは、天候や客数を学習したうえで適切な割引率を提示する仕組みを採用し、2021年に惣菜で始めてから畜産や水産へ広げ、廃棄率が1割以上下がったとしています。
当社では、需要予測により最適な価格設定を行うデータ分析を大手サービス業様にて実施し、また大手メーカー様ではシフト自動化のための需要予測の精度改善の取り組みを、また小売チェーンのお客様では来客数予測システムを開発・導入した事例がございます。
受発注やダイナミックプライシングは基本的に半自動化が望ましい
AIによる発注数や値引き(またはダイナミックプライシング)の取り組みも多いですが、実務上望ましいのは例えば人材・採用業と同様、最終的には店舗の担当者がAIの出力を持って最終判断をする「半自動化」と言えます。
システムによる「完全自動化」は多くの場合、棚の見栄え、地元の催事等、データ活用担当者や管理者が考慮しきない、現場特有の定式化されていない制約要素が、AIの提案を採用できないものにしてしまい、現場導入したものが活用されなくなってしまう結末になってしまう可能性があります。
人員配置は需要予測の最大の活用先だが、現場のルールが入っていないと組み直しになる
飲食料品小売業で正社員の人手不足を感じている企業が5割に達すると言われており、人員配置についての取り組みも行われています。シフト効率化は需要予測の最大の出口ですが、資格や希望休といった現場のルールが計算に反映されていないと、出てきたシフト案は結局組み直しになります。流通・物流業で見る状況とほぼ同じと言えます。当社でも需要予測を人員配置に用いた事例 (大手メーカー企業事例)や、販売量ではなく来客数予測を行った事例 (サービス業事例)があります。
省人化のために置いた装置が、これまで取れなかったデータを生む
省人化のために置いた装置が、結果としてデータ活用の余地を生んだケースもみられます。トライアル社は、レジ機能を持つスマートショッピングカートを約280店舗に2万3,000台導入しました。これまでの小売が持てたのは、レジを通過した購買結果が中心です。同社のようにカートや店内のAIカメラが入ると、どの棚の前で足を止めたか、何を手に取って戻したかまで追跡が行えます。流通の領域で、伝票のAI-OCRが省力化であると同時に配送データを生む施策でもあったのと、同じ関係と言えるでしょう。
自社アプリが、販促と価格をデータ活用の対象に変える
顧客との接点を自前で持ち直す動きも強まっています。マツキヨココカラは自社アプリを軸に、店舗から最短当日で届く配送や、一定額以上での送料無料を揃えました。大手ECのモールに乗るのとは別に、自前の販路を育てているかたちです。ダウンロードから6か月後の継続利用率は85%と報じられており、買い物の入口がアプリに移りつつあります。
これはデータ活用の観点でも大きな意味があります。チラシや店頭の値引きでは、誰がそれを見たのかを記録できません。アプリなら、誰にいつ何を出したかと、その人がその後買ったかどうかが、同じ会員IDとして繋がり、販促や価格の設計はデータ活用の対象になります。
まだ道半ばなのは、商品と顧客の潜在的な属性の抽出
まだ道半ばのデータ活用領域として存在するのが、商品と顧客の潜在的属性抽出です。例えば、小売の商品マスタから「高級志向」「一人暮らし向け」「贈答用」といった、商品固有の属性をAIから抽出する試みがあり、逆に購買者の購買傾向から商品の意味を復元するといったことも可能でしょう。